鹿児島の魚突きチーム「海人団」②
6がつ 18にち、てんき はれ。
「もう一本、いきませんか?」
――その言葉は、朝8時から昼の1時までの5時間を、血眼になって魚を探し続け、それでもほとんど見つからなくて、やっとの思いで一匹突いて、とりあえずようやく海から上がってきたという「クレイジージャパニーズ」の口から出た言葉でした。
そう、僕は不完全燃焼だったのです。
ここのところ過去最新の突行で、連続して40前後のイシダイを突くことができており、自分にしては正直調子が良すぎるように感じていました。
――ゆえに、今日はさすがにコケるんじゃないか。
潜る前からそんな思いがありました。
実際に今日、良型のオオモンハタを突くことはできたものの、その「突き方」はとてもお粗末なものであったし、その前の小ぶりなアカハタ、オオモンとのやりとりも情けないものでした。
「自分にしては調子がいい」
その言葉が一度で終われば、それは本当に「調子がよかった」ということです。
しかし、その言葉がもし継続して出たならば――。
一度や二度でなく、何度も何度も続いた時、人はそれを「成長」と呼ぶのです。
今が大事な時期であることをクレイジーな頭でもよくわかっていたのだと思います。
そして、現段階の突果とその過程を見て、「自分にしては――」と言えるほどプライドの低い男でもありませんでした。
「もう一本、いきませんか?」
バディであるダイスケさんもさすがに即答はできません。
なぜならフロートが壊れていたからです(笑) 魚を突いても沈んでしまって移動すらままならないからと、頭を悩ませています。だが、それでも了承してくれました。
2ラウンド目は短期決戦。
とにかく「まともな突き方」をして上がりたい、というのが一番に胸の中にありました。
しかし、なかなかハタ系は見つからない。いや、一匹も見当たらない。
不意に現れたイシダイに対し、寄せを試みます。
岩の上に着底すると、ほぼ全てのイシダイは寄せに反応してくれました。前半同様、アプローチに関してだけは悪くないと言えそう。ただし、すべてがすべて2m銛の射程に入ってくれるほど、甘くはないのです。
一度、そのイシダイの距離は間違いなく射程内でした。すかさず撃った銛が意図しない方向に飛んでいくのをみて、「何かがおかしい」と思いました。構え方か、狙い方か。
銛を視線とまったく同じ直線上に構えることは、まず不可能です。ゴムを引いたとき、どうしても柄の後ろ側が体にあたってしまう。なのでどうしても銛は「右手から真ん中へと斜めに向く」形となる。
魚に当てるには、銛先の角度を距離感で判断してつけなければなりません。
ということは、「魚」よりむしろ「銛先」に意識を集中させて見なければならないのじゃないか。
――という思いつきをした、だいちゃん26歳の夏でした。
しかし、思いついても試す相手がいませんでした。
調子の悪い耳抜きで深場に行く気にもなれず、入り組んだ地形を探しては、その浅いところをふらふらと漂うだけなのですから、そりゃあチャンスも少ないですわな。
正直疲れました。
広いポイントで移動がほとんどですし、前半にGOPROトラブルでばたばたしたし、それでいて6時間以上海に入ってるのですからムリもありません。
潮時か、とエギジットポイントに向かい始めたときでした。
眼下に、鮮やかなオレンジの影が見えました。
――アカハタです。
それもなかなかに良型で、間違いなく今日見た中では一番です。
ただ、僕に気付くなり一目散に移動します。
(これは警戒心つよいやつだ・・・)
そう思い、追いかけてはダメだと思いました。が、逃すつもりもありませんでした。
遠目で追跡し、どこか穴にでも隠れて警戒心が回復するのを待とう、そう判断して、やや遠くからストーキングします。
そして、その作戦はすぐに功を奏しました。
それほど遠くない場所にあった、「軍艦」のような長い形の岩下に、そのアカハタは逃げ込みました。
『軍艦岩の攻防戦』
僕は息を整えます。
突きたい魚を目の前にした途端、疲れを感じなくなるから不思議です。
潜行し、アカハタの逃げ込んだ陰に顔を突っ込みます。いました。ただ、想像以上に目の前にいましたので、びっくりさせてしまい、穴の奥に逃げられてしまいました。
ただし、この岩陰はなかなか広く、出入り口も多い。奥に逃げたといいましたが、その先にも穴があり、反対側に回れば全然覗けそうです。早速移動し、また覗き込みます。もぐらたたきというか、黒ひげ危機一髪というか、なんだかそういうゲームのようです。
とにかく僕は、穴をのぞき、移動されたらそちらに回る――というのを突ける角度をとれるまで繰り返しました。
そしてついに、覗いた穴の先、アカハタの横っ腹が見えました。しかも顔は岩で隠れており、間違いなく、気付かれずに突けます。
しかし、僕は銛を引っ込めました。
顔が隠れているので「ヘッドショット」が狙えないのです。
いったん浮上した僕は、岩の反対側、つまりアカハタの正面へと回り込みます。
最後の戦いのときです。
決着をつけるべく、深呼吸を繰り返し、静かに体を丸め込み、潜行を開始。
海底ではプランクトンだか何だかわからない粒が舞っており、岩穴が余計に見えづらくなっています。それでも目を凝らし、顔を近づけターゲットを探します。
いました。
「アカハタや
岩の陰より
と、つい心の一句がもれてしまいます。俳句の国、愛媛県民ということがばれてしまいそうですが、なにはともあれ勝負のときです。
アカハタが真正面よりこちらを見据えてきているので、僕は「右手に構えた銛を内側へと斜めに向ける形」でアカハタの頬を狙って構えます。まるでボクサーがフックを打つようなイメージです。
ただ、ここは狭い岩の穴の中。見え辛く、角度もつけづらい。
でもチャンスはこの一度きり。やるしかありません。
僕はまず、第一に「銛先」を見ました。そしてその延長線上にぼんやりと見える「魚」のシルエットを見ます。
「今銛を放てば、こう飛ぶ」
イメージがあたまに浮かんだとき、銛を放ちました。
確かな手ごたえがありました。
よし! と思い、銛を引きますが、何か違和感のある重みが銛先から伝わってきます。
(これは単に引っ張るとバラすかも・・・)
時間をかけて狙ったぶん、すでに少々息苦しいところではありましたが、ここはちゃんと確保しなければ、と手を穴に突っ込みます。
ガンガゼが穴の中に仕掛けられている中、注意して銛の先をまさぐり、そしてついにアカハタの頭をこの手に掴みました!
サイズは36cmと、過去の記録サイズと同じでした。
しかし嬉しかったのはその突き跡。頬を通って反対の頬から抜けています。
本来なら「頬から斜めに入って反対側のカマへ抜ける軌道」で撃ったのですが、「左頬から右頬へと綺麗な真横」に抜けています。魚も咄嗟に身体をひるがえしたということがわかりますね。しかし、それがかえって全く身を傷つけない結果となりました。
僕はこれで何とか気分揚々、エギジッドすることができました。
――ところが、です。
ボクのあと、海から戻ってきたダイスケさんの魚を見て、僕は悲鳴を上げました。
そうスジアラです(笑)
この時期に仕留めるとは大したものです! さすがウチのデビルスナイパー!
ということで、まさかとは思いましたが、本格的な梅雨も始まる前のこの時期に三種のハタを二人の力で突き、揃えることができました。
そして最後に、この日の動画です。